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モビルスーツバリエーションの原点

「モビルスーツバリエーション」の原点は、「怪獣倶楽部」所属のフリーライターで当時『テレビマガジン』編集長の安井尚志(安井ひさし、やすい尚志)が、『講談社ポケット百科シリーズ15 機動戦士ガンダム』、『テレビ版 機動戦士ガンダム ストーリーブック』、『劇場版 機動戦士ガンダム アニメグラフブック』といった3つの書籍の執筆を氷川竜介に依頼したことに始まる。安井は設定が無ければ新たに作るという思想の持ち主で、ウルトラ超伝説(アンドロメロス)など、ウルトラシリーズの拡張作品のプロデュースを行い、設定を多く作り上げたことで知られている。

氷川は安井の姿勢に従い、幼年向けの書籍『講談社ポケット百科シリーズ15 機動戦士ガンダム』にて、あくまでも怪獣図鑑的な発想でアニメには無い新規の設定(例えばフレキシブルアームやアイアンネイルなど)をいろいろと書き起こした。しかし、例えばザクのモノアイのターレット構造などは設定画が存在しないため新規の設定が困難だった。そこで、比較的高い年齢層に向けた書籍『劇場版 機動戦士ガンダム アニメグラフブック』を執筆するにあたり、安井を通じて、大河原邦男に新たな設定画を描いてほしいと打診した。

すると大河原は、どうせ設定画を描くならば、テレビに登場しないオリジナルのザクのイラストを描きたいと返答をしてきた。そして、湿地帯用ザク、砲撃戦用ザク(後のザクキャノン)、水中型ザク(後のザク・マリンタイプ)、砂漠戦用ザク(後のザク・デザートタイプ)の4種類の「ザクバリエーション」がデザインされた。これが制作者サイドが作った最初のオリジナルモビルスーツだった。続けて『劇場版 機動戦士ガンダムII アニメグラフブック』、『劇場版 機動戦士ガンダムIII ストーリーブック』、『テレビ版 機動戦士ガンダム ストーリーブック』2~4巻でも新たなザク、さらにはグフとドムの中間機(後のYMS-08A高機動型試作機)やジオング完成型(後のパーフェクトジオング)のイラストが描かれ、話題を呼んだ。

『GUNDAM CENTURY』の発表と『コミックボンボン』の誕生

一方、みのり書房からは『機動戦士ガンダム』をSF的・ミリタリー的な視点から見た初めての資料集、月刊OUT8月号別冊『宇宙翔ける戦士達 GUNDAM CENTURY』が発売された。本書には、後にサンライズのオフィシャル設定となる記述が多数見受けられるが、その中にザクIIのバリエーションに関する設定があった(余談だが、ザクIIという名称を作ったのも本書である)。この時点で両者は接点は無いものの、いくつかは『劇場版 機動戦士ガンダム アニメグラフブック』シリーズの「ザクバリエーション」を意識したものではないかとする説もある。また、黒い三連星が搭乗したとされるMS-06R高機動型ザクIIが設定されたことも、後に非常に大きい影響を与えた。

また、ガンプラブームにより、徳間書店の『テレビランド』などをはじめとする各社各誌・各書籍でも模型作例が次々に発表されていたが、中でもホビージャパン社の雑誌「ホビージャパン」では、小田雅弘、高橋昌也、川口克己といった、模型サークル「ストリーム・ベース」に所属する3人のモデラーを中心に人気を博していた。当時、ホビージャパン編集部と講談社は良好な関係にあったため、「ホビージャパン」誌上にて大河原の「ザクバリエーション」が立体化されることとなり、さらには別冊『HOW TO BUILD GUNDAM 2』が発売された。

その後、氷川が都合により現場を離れるが、安井は代わりにストリーム・ベースの3人と交流を持ち、安井を中心に「クラフト団」が誕生。『テレビマガジン』でも模型を発表するようになり、別冊『SFプラモマガジン』が発売されるにいたった。『SFプラモマガジン』1巻では、『GUNDAM CENTURY』で設定されたMS-06R高機動型ザクIIの画稿が大河原によって書き下ろされ、『GUNDAM CENTURY』の記述を元に小田が設定を作り、大河原がデザインを起こすという後の「モビルスーツバリエーション」への基礎ができあがった。

そして1981年10月、安井の手によって講談社の雑誌『コミックボンボン』が創刊。創刊号から毎号テレビに登場しないオリジナルモビルスーツのイラストを大河原が描き下ろし、ストリーム・ベースの3人を中心とするモデラーが立体化するという企画が行われた。これは『GUNDAM CENTURY』にて、多数のザクIIバリエーションが設定されていた事も大きく影響していた。ただし、この時点では『機動戦士ガンダム』だけではなく『太陽の牙ダグラム』や『戦闘メカ ザブングル』なども平行して連載されており、この中では『機動戦士ガンダム』の地球連邦と『太陽の牙ダグラム』の地球連邦は同一の組織であるという展開が行われていたり、『無敵ロボトライダーG7』などもミリタリー調にリデザインされたイラストが描かれたりしているなど、まだ単なる遊びの域を抜けていなかった。さらに1982年4月には『プラモ狂四郎』の連載が始まり、それまでに培われたザクバリエーションも登場。さらにオリジナルモビルスーツ・パーフェクトガンダムの登場により、人気はピークに達した。

モビルスーツバリエーションの誕生

一方、バンダイではアニメに登場したメカをほとんど発表しつくしてしまい、プラモデルのラインナップに限界を感じ、新たな企画を模索していた。アニメの設定に準じたものとしては、人物をプラモデル化した「キャラクターモデルシリーズ」や劇中の場面を再現したディオラマ「情景模型シリーズ」が発売され、さらにはサイド7のプラモデル化までが企画された。また、アニメの設定にとらわれないものとしてモビルスーツの内部構造を露出させた「メカニックモデル」なども発売したが、これらは従来のガンプラシリーズからはかけ離れており、主力とはいいがたかった。

そこで、講談社の「ザクバリエーション」に目をつけたが、まだ当時はアニメに登場しないメカが商売になるとは到底考えられない時代であり、商品化には慎重だった。そこでまずは前段階として、大河原邦男が描いた劇場版ポスターのイラストや小田雅弘の作例を意識し、従来のモビルスーツの成型色をミリタリー調に変更した「リアルタイプシリーズ」を発売。さらに、アニメ作中の未登場モビルスーツ(アッグシリーズとゾゴック)の販売も行った。また、「1/100 旧ザク」には講談社発行の書籍『講談社のポケットカード8 機動戦士ガンダム モビルスーツコレクション』にて大河原によって新たに設定された専用マシンガンを付属させた。これらは、アニメに登場しないにもかかわらず人気の商品となった。

以上でアニメに登場しないモビルスーツでも十分に商売が可能と判断されたことと、ガンプラブームにより十分な市場が確立されたこと、そして2年間のガンプラの販売により技術が積み上げられたことなどから判断し、ついにバンダイは1982年秋に「ザクバリエーション」の商品化を決定した。しかし、ザクだけでは商品展開に困ることから新たな名称を検討する必要があり、小田雅弘によって『モビルスーツバリエーション』と名付けられ、合わせて「MSV」のロゴも作られた。これを期に『コミックボンボン』のライバル誌である「テレビランド」で活動していた草刈健一も安井の要請により『コミックボンボン』に参加。1983年初頭に商品化を発表し、バンダイの「模型情報」や講談社の『コミックボンボン』『テレビマガジン』にて設定やデザイン、模型作例を発表する連載が行われた。

なお、この時点でバンダイのグループ再編が行われた。プラモデルを担当していたバンダイ模型は親会社であるバンダイに吸収され、バンダイのホビー事業部となった。

モビルスーツバリエーションの展開

まずはプラモデル第1期シリーズとして、それまでに発表されていたザクバリエーションが1/144スケールで発売された。プラモデル化第一弾は『GUNDAM CENTURY』にて設定され、『SFプラモマガジン』にてデザインされた、「1/144 高機動型ザクII」である。結局のところ十分な売り上げがあったため、1983年4月から6月までの3ヶ月間で従来デザインされていたザクバリエーションの販売が全て完了し、1983年7月からは第2期シリーズに移行することとなった。

第2期シリーズではついに「モビルスーツバリエーション」として新たにデザインされた機体が登場した。第1弾は「1/144 ガンダムフルアーマータイプ」で、さらに1/100スケールと1/60スケールの発売も開始された。この頃から『プラモ狂四郎』では毎回その月に発売される新作の「モビルスーツバリエーション」が登場するというマーケット手法がとられるようになった。

また、『GUNDAM CENTURY』の「変わった塗装をするのはシャアだけに限らない」という記述から、ジョニー・ライデンという『モビルスーツバリエーション』シリーズ独自の人物が設定されたが、これがまた人気となり、ついにはプラモデルが発売されるにまで至った。この際、発売された月の売り上げがアニメに登場した人物である黒い三連星の専用機を超えてしまうという前代未聞の事件が起こった。アニメに登場しない独自の設定が、元のアニメを越えてしまった瞬間である。これはガンダムシリーズの大きな広がりを意味すると共に、これ以降、独自の設定がさまざまな媒体で乱立し、収拾がつかなくなるという事態も招くこととなった。

1983年11月をもって第2期シリーズは終了。年末商戦は『銀河漂流バイファム』や『聖戦士ダンバイン』などの新作に譲った。

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